- 金型で使用する圧縮ばねの決め方がわからない。
- Excelでばね計算機を作る方法が知りたい。
- カタログを見るのが手間でExcelで情報管理したい。
こんな悩みを解決します。
最後まで読んで頂き、実践して、ここへ来なくなった頃には、
あなたはスキルアップしている事でしょう。
さて、この記事の題目は
このサイトを運営している私は、
製造業での設計歴20年以上のエンジニアです。
Excelを使って業務効率化もしています。
金型設計の圧縮ばねを決める方法
前編-1限目:圧縮ばねの役割
圧縮ばねの役割について、スライド構造を例として考えてみます。
スライドは金型が開く際にアンギュラピンにより後ろへ動きます。
※スライドの動きがわかるように可動側を固定しています。
この図の場合、アンギュラピンが抜けた後は、
位置を制御するものがない事がわかると思います。
もし、スライドが天側に設置されていた場合、
アンギュラピンが抜けたと同時に、重力で前に動いてしまいます。
※スライドの動きがわかるように可動側を固定しています。
このまま製品を突き出すと、製品の穴がちぎれてしまいます。
又、アンギュラピンがスライドの穴に入らない位置なので、
このまま金型を閉じてしまうと、干渉して破損してしまいます。
その為、金型が開いている状態の時は、
スライドは常に後ろの位置になくてはなりませんので、
何かしらの方法で後ろに押し、その位置を維持する必要があります。
この役割を果たすのが圧縮ばねというわけです。
エジェクタープレートも同様に、元の位置に戻すという役割として使用します。
前編-2限目:圧縮ばねのばね定数とタワミ
圧縮ばねのばね定数について、理解しておきましょう。
ミスミのコイルスプリングを例とします。
出典:MiSUMi-VONA(コイルスプリング -高タワミ用 SWR-)
カタログの項目に「ばね定数・N/mm{kgf/mm}」と記載があります。
N/mmのNはニュートンという力の単位で、ここに記載された数値は
1mm毎にその数値分の力が加わるという事になります。
しかし「ニュートンじゃよくわからないよ!」という方もいますよね?
そこで、カッコ内の「kgf/mm」を見てみましょう。
これは、ニュートンをkgfに変換した数値で、1N = 0.102kgf となるので、
カタログの赤線の規格では、9.81N x 0.102 = 1kgf となります。
また、kgfというのは重さの単位「kg」相当分の力と考えて下さい。
次の、F(タワミ量)は、縮めた量の事です。
下の表では「F = L x 50%」と記載されていますが、
これは、縮めない状態のバネの長さL(自由長)から、
その50%の量を縮めた場合に、8kgfの力が加わるという事を意味します。
出典:MiSUMi-VONA(コイルスプリング -高タワミ用 SWR-)
ここで、お気付きかもしれませんが、ばねが長くなると定数が小さくなっていく為、
このサイズではどの長さを選んでも、半分縮めた状態の力は8kgfという事になります。
又、「温度」と「回数」について、注意が必要です。
出典:MiSUMi(プラ型用標準部品2018・P1118)
表の「許容最大タワミ」に記載の通り、高温で使用したり、伸縮させる回数が多い場合は、
()内の耐久ショットが少なくなりますので、使用する条件を考慮して選定しましょう。
前編-3限目:圧縮ばねの計算方法
圧縮ばねの計算方法については、最初に、スライドストロークを決めます。
スライドストロークは、製品のアンダー量+クリアランスとなります。
※スライドの動きがわかるように可動側を固定しています。
アンダー量は、スライドが動いて製品から抜ける距離
クリアランスは余裕として5mm程度あれば問題無いと思いますが、
設計基準があると思いますので、任意で決めて下さい。
次に、スライドを設計してスライド重量を求めますが、
ここでは細かい計算ではなく、図の赤枠のブロックで考えます
見た感じ、少し重めの結果になると思いますよね?
つまり、これで計算しておけば余裕があるという事になります。
又、計算式は「体積 x 比重」ですが、忘れてしまった場合は、
Excel応用「金型設計」で使える重量計算機の作成方法「初心者向け」
↑こちらのリンクで解説をしております。
スライドストロークと、スライド重量が決まったら、スプリグの選定となります。
今回は、スライドストロークを6mm、スライド重量が2kgの場合を例とします。
ここで、ばねの立場で考えてみるのが理解への近道です。
まず、半分に縮まっていたばねは、金型が開いて6mmまでは元の状態に戻り、
さらに、重力で落ちようとする2kgの鉄の塊を押し続けなくてはなりません。
つまり、F(タワミ量)は、スライドストロークの6mmより多くないと、
戻ろうとする力が足りなくなり、2kgの鉄の塊を押し続ける事が出来ないという事です。
これを踏まえて、カタログを見てみましょう。
出典:MiSUMi-VONA(コイルスプリング -高タワミ用 SWR-)
一番短いL15は、F=7.5mmとなっています。
これを使った場合、6mm戻っても1.5mmは縮まっているので、押し続ける力はあります。
試しに、これにばね定数を掛けると、1.5mm x 1.07{kgf/mm} = 1.61{kgf}となり、
重量2kgに対して、1.61{kgf}では、力が不足している事がわかります。
ここまでくると、ばねの力を求める式が理解できるかと思います。
ばねの力 =( F – スライドストローク )x ばね定数
この式を使ってL20とL25を計算してみましょう。
L20の場合は、( F10 – 6mm )x 0.8{kgf/mm} = 3.2 {kgf}(約1.6倍)
L25の場合は、( F12.5 – 6mm )x 0.64{kgf/mm} = 4.16{kgf}(約2.1倍)
どちらも2kgより大きい力になりました。
()で倍率を記載しましたが、どちらでも良い選択肢になってしまった場合、
選定する考えかたの一つとして、スライド重量の何倍にする等の基準を作っておく事で、
迷うことがないので良いかと思いますが、その際の注意点として・・・
スライド重量のが大きい場合に、単純に倍率だけにすると、
スライド50kgの2倍 = 100kg の様に、過剰な設定になってしまい、
ばねが強すぎる事で、組込みの作業性が悪くなったり、
ばねに押されて下がろうとするスライドが、さらにロッキング面を押し戻して、
金型が開いてしまう事もあるので注意して下さい。
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